研究概要 |
音信号をランダムベクトルへ分解し,空間的に配置したスピーカから放射して合成する従来の方法には,空間のある所望の場所で所望の情報が高い品質で聴取できないという点でも,所望の場所以外でその情報が伝達されないことが保証されないという点でも問題のあることがわかっている.本年度は,そのうち後者の問題,つまり,所望のスポット以外では音声の内容が聴取されないような,信号の分解方法および合成方法について検討した. 研究計画としたランダム信号以外の信号への分解方法については,短時間フーリエ変換に基づいたスペクトルへの分解について検討をした.しかし,ランダム信号への分解に比べて,合成される音声が所望のスポット以外で聴取しづらくなる,といった結果は得られなかった.ピンクノイズやHothノイズといった,ランダム信号と類似の信号への分解手法についても,同様の結果であった. そのため,分解で得られたランダム信号を再生する音源の配置について,検討を加えた.その結果,所望のスポットに対してある程度の距離差を設けた音源を20個程度以上分散配置することで,スポット以外での音声の再生精度が低下し,なおかつ音声の意味の聴取を困難にする可能性が示唆された.ただし,音源配置に関する検討に時間を要したため,現段階では,本格的な聴取実験を行うには至っていない.この成果は,国際学会(論文掲載に査読あり)で発表する予定である. 信号の分解に基づいて音声を所望のスポットに合成する方法では,音源数は少ない方が望ましいと考えている.それは,音源数が多数となれば,指向性合成やアクティブコントロールに基づいた手法の方が大きな効果を得られると考えられるからである.そのため,少数の音源数で行える分解手法について引き続き検討を行っているが,現状ではスポット以外での秘匿性の高い音声の再生はできていない.
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