研究概要 |
本研究は、干潟に生息する二枚貝に着目しその生態行動を一連の土質力学的問題として分解して、二枚貝の生態行動を数値モデル化することを目的とし、初年度では干潟でアサリとシオフキを対象として二枚貝の潜砂挙動の観察を行い、地盤上に水平に横たわる二枚貝は「足を突っ込む」「体を立てる」「体を引き込む」という3つの段階を経て地盤内に潜るということを明らかにした。 上記の成果を元に,本年度は二枚貝が生息可能な地盤条件を推定可能な理論モデルの構築を行った。理論モデルは、干潟材料を摩擦性の剛塑性体と仮定し、基礎の極限支持力解の3種を援用するものである。「足を突っ込む」行為は、円錐物体の貫入問題としてモデル化されうる。すなわち二枚貝の足を基礎とみなし、基礎の極限支持力と足の伸長力による設置厚を比較することで、地盤の破壊、すなわち貫入が可能であると判定するものである。ここで二枚貝の足幅を殻長の1/4、足の円錐頂角を30度、足の伸長力を殻長に比例するとの仮定ものとで理論計算を行うと、殻長20cmの二枚貝は、干潟の相対密度が60%程度までは足を突っ込めるが相対密度80%では不可能になることが導け、生息可能な干潟の地盤力学的パラメータとの関連が明らかとなった。次に「体を立てる」行為は、剛体の力学モデルによる転倒判定と拡張された浅い基礎の支持力問題として解釈が可能である。転倒しない場合は、二枚貝の体を基礎とみなし、基礎の極限支持力と、自重および足の収縮力との合力による接地圧の比較から地盤破壊が判定される。その結果、殻長とともに水位が大きく影響していることが導ける。 このように、理論支持力モデルによって、干潟の密度、水位条件によって二枚貝の生息範囲が限定されることが明らかとなった。さらに二枚貝は相対密度の高い締まった地盤では、自らの体を傾斜させることで低下する基礎の極限支持力を巧みに利用していることも、支持力モデルから説明可能であることが明らかとなった。
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