研究概要 |
淡水性藍藻類は莢膜や群体を形成することで,栄養塩摂取の効率化や外敵からの自己防衛を図っていると推測されている。従って,閉鎖性水域等におけるアオコの発生や終息を理解するためには,重要な繁殖機能の一つである莢膜の形成に関する知見が必要となる。しかし,継代培養を続けるに従い莢膜は消失してしまい,室内培養系で莢膜の生成を成功させた前例はなく,莢膜に関する知見は乏しい。本研究課題では,淡水性藍藻類の莢膜形成に関与する環境因子を明らかにし,藍藻類による莢膜生成がアオコの形成や消長に及ぼす影響を調べること目的とする。本年度は,水質環境因子の一としてレクチンに着目した。異なった糖類と特異性を持つ3種のレクチン存在下において,Microcystis aeruginosa(NIES-478)を培養し,莢膜の主成分である糖の量や栄養塩の内でも鉄摂取速度について分析を行った。このうちガラクトースやN-アセチルガラクトサミン構造に特異性を持つレクチン(PNA)存在下で培養された細胞について,細胞外多糖や鉄摂取速度が対照系と比較して有意に増加した。また,蛍光色素を結合させたレクチンを使用して,蛍光顕微鏡下で細胞へのレクチンの結合を確認した。従って,レクチンの中でもある特定のレクチンのみが,細胞表面に吸着し,細胞表面多糖の形成や栄養塩の取り込みを促進する働きを持つことが分かった。レクチンが藻類細胞活性に及ぼす影響について,その詳細なメカニズムは今後の課題となるが,本研究では初めて細胞表面多糖の形成や栄養塩摂取と細胞外レクチンが関係することを示すことができた。
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