本研究の目的は、水平動下で柱が鉛直軸回りに回転する伝統木造建物の動揺現象の発生メカニズムを解明することである。研究代表者の既往の研究より、水平調和加振された円柱はロッキング後、転倒もしくは鉛直軸回りの回転運動に至ることが実験で確認されている。平成22年度は、一方向の水平調和地動を受ける円柱単体に対して、鉛直軸回りの回転挙動が発生する数理構造を明らかにするための解析的研究を実施した。円柱底面が初期位置からずれないことを前提とすれば、円柱は加振方向と加振直交方向の並進変位を独立変数とする二自由度系の動力学モデルで表すことができる。運動方程式に調和バランス法を適用し、加振方向と加振直交方向に対して、周波数ごとの定常応答解の方程式を導出した。着目している鉛直軸回りの回転運動の発生メカニズムは、加振直交方向の変位成分がいかにして現れるかという問題に置き換えることができる。加振直交方向の方程式は斉次方程式となり、その非自明解の存在条件から、鉛直軸回りの回転が発生する条件式が導かれる。その条件式は、局所座標でのロッキング量が振動数と質量から定まる定数に達する加振振幅のとき、回転が発生することを意味している。以上の解析的検討の結果、実験で観察された鉛直軸回りの回転挙動が臨界現象であることを理論的に明らかにし、回転挙動の発生条件の妥当性を数値解析的に検証した。 次年度は、水平調和地動を受ける剛体円柱の定常応答に対する臨界点後の応答解析を行い、新たな動揺現象が存在するかを理論的に明らかにする。更に、柱単体の解析モデルを拡張し、架構の限界状態に対する入力エネルギーの評価法を提示し、研究の総括とする。
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