研究概要 |
愛媛県南予地域の当初予定を東予地域として,古民家に使用されている部材の樹種とその材積が周辺地域の植生とどのような関係があるかを検討した。植生についての古い記録がある西日本最高峰の石鎚山(標高1982m)の愛媛県西条市大保木地区にある築後約80年の農家住宅(標高432m)を調査対象とした。小屋裏から床下まですべての部材の断面寸法と長さを測定し材積を求めた。また,それらの部材から小試験体を切り出した。採取した小試験体から1センチ四方の立方体を切り取り,蒸留水の入ったビーカー入れ,電子レンジで空気が抜けるまで煮沸した。次にミクロトームで木口,板目,柾目の三断面から20μmの厚さの切片を作製した。切片をスライドガラスに乗せて,ガムクロラールで封入をした後,光学顕微鏡観察により樹種を同定した。 その結果,針葉樹はヒノキ,スギ,アカマツ,ツガの4種類,広葉樹はクリ,スダジイ,アカガシ亜属,ヤマザクラの4種類の計8種類を確認できた。いずれも石鎚山周辺に分布する樹種である。材積の使用割合は,針葉樹が全体の90%を占めており,なかでもスギ・ヒノキの割合が高かった。広葉樹は大黒柱にクリ,軒桁にスダジイが使われていたのを除き,大引,敷居,床束,土台に使われていた。これらから,適材適所を部材使用選定の基本としていることがわかった。今回調査した家屋でスギ・ヒノキの使用割合が高いのは,石鎚山を源とする加茂川流域に発展した300年の歴史をもつ人工林業との関係があると思われる。
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