研究概要 |
本年度は,愛媛県南予地域の大洲市にある懸造を有する少彦名神社参籠殿に使用されている部材の樹種が周辺地域の植生とどのような関係があるか調査を行い,昨年度までの研究結果をまとめて,森林の生物多様性を反映させた持続可能性指標の検討を行った。 この結果,古民家においても新築時には,柱材では一定の断面寸法のものが80~100本必要になるため,スギ・ヒノキの人工林からの供給がいずれの地域でも行われていたことがわかった。施主への聞き取りから裏山に先先代自ら植林したスギ・ヒノキ林からの場合もあった。愛媛県内では,昔から林業が盛んであり,今回の研究対象の築100年以内の古民家ではどのような地域でも新築時に近隣に人工林があり,供給が可能であることを文献資料から確認した。 また,横架材など断面寸法が大きい材は,近隣の里山などからアカマツなどが供給されていたことがわかった。土台には耐久性に優れるクリが近隣の里山などから供給されていたことがわかった。造作材等は,寸法も一定ではなく,また各1本程度しか使用されないため,近隣の植生からビワ,トチノキなど種々の広葉樹が使用されていた。 一方,住宅の修復の際には,柱材であっても少量しか必要ないうえに,横架材とともに寸法だけがあえば良いため,ツガやスダジイなどを近隣の植生から伐採して使用していたことがわかった。 これらの検討結果から,古民家であっても新築時は人工林が必要であったことがわかった。しかし,現時点でこれらの古民家を修復・維持する際には,人工林以外の多種多様な樹種を必要とし,生物多様性の豊かな里山林が必要となることがわかった。
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