本研究は従来法では測定の困難な、重い金属元素のバルクガラス中の歪分布を直接定量評価する手法を開発し、ナノレベルで明らかになりつつある密度変調クラスターとの関係を明らかにすることにより、金属ガラスの脆化の階層性の解明をしようとするものである。本材料では、従来の硬X線では透過能不足、中性子ではビームが大きすぎるという不都合があった。極硬エネルギーX線を利用した歪測定が実現されればこれらの不都合は解消される。 本年度は微小ビーム走査法により、衝撃強度特性に大きな違いの生じる金属ガラス材料に焦点を絞り、外場によるひずみ勾配下でのバルク金属ガラス材料中の歪分布を定量評価した。113keVの高エネルギーX線を40μmに絞ったビームにより、2mm角の梁の曲げ変形下の歪の走査測定をおこない、平均歪の定量評価とともに、その変形時のPoisson比を実測した。これらのマクロな測定解析値はシャルピー衝撃吸収エネルギーの大きく異なるZrCuAl試料の間で大きな違いが見られず、平均構造としての歪やその不均一性については数十ミクロン程度の領域平均より大きな階層においては差が無いことがわかった。したがってこれらの特異的な力学特性の差は、原子-ナノスケールの不均一性との関連を明らかにすることで説明されると結論付けられた。この結論はマクロな力学的負荷をかけられる梁材を直接μmレベルのビームで内部の歪を評価するという本実験方法によって初めて得られたものである。一方、本実験で得られた強い圧縮及び引っ張り状態での試料の安定的な保持と歪評価の条件を適用し、本研究はさらに同一条件でのナノ密度揺らぎ測定法の開発へと結びついた。これは本研究の目的である階層的歪構造のよりナノレベルへの、同一エネルギー、ビーム、試料条件での展開について本年度の成果により見通しがついた。
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