本研究では、構造材の破断の兆候を検出するために、基板の変形によって色が鋭敏に変化する構造色塗料を調製することを目的としている。最初に構造色を作成するために最も一般的な手法であるシリカや高分子のコロイドを溶媒に分散・凝集させ、溶媒と屈折率の異なるコロイドの配列によって発現する構造色を観察した。その結果、コロイドの種類や凝集状態によって異なる波長の構造色が観察された。しかし、この構造色はコロイドの凝集によって発現しているため、撹拌やずり運動など塗料として使用するためには必要不可欠な操作を行うと消失してしまうなど極めて不安定であった。さらに、観測する角度によって構造色が異なるなど、その変化を検出するためには致命的な欠点も明らかになった。次に、蛍光や蛍光消光の利用も試みた。ゲル担体上に蛍光分子と消光分子蛍光や蛍光消光を付着させ、蛍光消光に及ぼすゲル密度の影響を調べた。しかし、材料の変形などマクロな現象に対しては波長や強度の変化を見出すことができなかった。これは、蛍光消光が極めて近距離の分子間における現象であるため、バルクの変形の影響をほとんど受けないためと考えられる。一方、重合溶媒と高分子との相溶性によっては、ミクロ相分離に起因する構造色がしばしば観察される。本研究でもアクリルアミド系高分子と貧溶媒であるトルエンの組み合わせによって構造色が観測された。この構造色は溶媒の蒸発によって消失したが、揮発性のほとんどない溶媒や固化する媒体を使用すれば、構造色の安定化が実現できると期待される。
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