構造物基板の変形に追随して伸びる高分子ゲルを多点で架橋構造を形成させることにより作製した。シリカコロイド粒子をゲル中に分散させ、ゲルの伸びに応じて構造色の色調が変化する膜を作成した。昨年度までは、ゲルの形成に通常の架橋剤を用いて高分子重合反応を行ったが、再現性のある伸縮ゲルの調製ができなかった。そこで本年度は、多価官能基を有する分子に活性化剤を加え、その場で架橋剤を生成させることにより、塗布後にゲル化させるという塗料の条件を満たした。かつ伸縮性のあるゲル膜とすることができた。しかし、以下の点が課題として残ったため検討を行った。 ゲル膜の安定性と基板との接着性 ゲル作成時使用する溶媒の乾燥により構造色が退色・消失した。これを解決するためにゲル表面をシリコン膜で覆ったが、乾燥を長期間防ぐことはできなかった。さらに、ゲル自体の基板との接着性にも改善の余地を残した。 構造色変化による破断の予測 全体的なゲルの伸びによって構造色の変化は得られたが、局所的な変化を見つけるには不向きであることがわかった。構造色は観察する角度によって色調が異なるため、変形による色調変化と角度による色調変化を区別できないという致命的な欠陥があることが明らかになった。学生によるモニタリング試験においても、小さな破断に起因する色調変化の場所を正しく見つけることができず、現時点では構造色による破断の予測は困難であるという結論に至った。 蛍光の利用 鋭敏な色調変化が期待される蛍光塗料の可能性を調べた。破断による割れ目においては蛍光を発せずに暗くなる場所が見出された。しかし、照射面全体が光る中での暗い部分を見つけることは現場観察には不向きであった。なお、この検討におけるシリカコロイドの分散剤として用いた界面活性剤の中に著しい蛍光消光現象を示すものを発見し、界面活性剤の特異的検出の原理を見出した。
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