研究概要 |
本研究では,スギ・ヒノキ・カラマツ・アカマツの圧縮木材の透明性発現機構の解明を目的に,次の二つの機構に着目した観点から,圧縮木材の透明性発現機構を実験的に検討した.(1)樹脂流動モデル:圧縮木材中にごくわずかに存在する空隙部への樹脂成分が充満することにより空隙部が著しく減少し,光が伝播できるようになり,透明性が発現するモデル.(2)細胞壁液化流動モデル:細胞壁自体が部分的に変化し,液化した物質がごくわずかに存在する空隙部を充満することにより光が伝播できるようになり,透明性が発現するモデル.本年度は,透明性発現挙動に対する前年度の実験結果をもとに,新たな実験手法を開発し,透明性発現機構について実験的に調べた.特に,試料木材としてツキ板を用いる精密圧縮法を開発し,この手法により,辺材部と晩材部に分けて,また,柔細胞あるいは垂直樹脂道を含む領域と含まない領域を分けて,それぞれ,選択的な大圧縮を行うことが初めて可能となり,透明性発現過程を組織別に把握することが可能になった.その結果,スギの心材を一例にとると,その辺材部と晩材部では,透明性発現機構が異なる実験結果が得られた.特に,スギ心材の辺材部についでは,柔細胞が存在しない狭い領域を選択的に圧縮した場合であっても透明性が発現した.この実験結果は,スギ心材の辺材部については,少なくとも柔細胞から流出する樹脂成分の移動現象以外の機構により透明性が発現することを示唆している.
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