研究概要 |
本年度は,感温性高分子の一種であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)をメソポーラスシリカ外表面上に固定化することによって温度応答性陰イオン交換体を合成し,その温度応答性の制御を架橋剤であるN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を添加することによって行った。合成した吸着剤の構造はX線回折,FT-IR,TG,元素分析,窒素吸着装置を用いて評価された。また,吸着剤の吸着特性(吸着量や吸着速度)は種々の温度でのメチルオレンジ吸脱着量を測定することで評価された。BISを添加しない場合,低温では溶液pHの変化に伴い,メチルオレンジは可逆的に吸脱着を繰り返し,高温では溶液pHとは無関係に吸脱着しなくなった。その相転移温度を測定した結果,30~35℃の間にあることが明らかとなった。PNIPAMにBISを5wt.%添加した場合,メチルオレンジの吸脱着挙動はBIS無添加の場合と非常に類似していたが,その相転移温度は異なり,35~37℃の間にあることが分かった。更にBIS添加量を10wt.%まで増加させた結果,相転移温度は35~40℃の間にまで上昇した。この結果から,架橋剤添加量を変化させることにより,温度応答性を発現させる温度を制御することが可能であることが分かった。、次に25℃でのメチルオレンジの吸着速度をFickの拡散方程式を用いて求めた。拡散係数の値は,BIS無添加の場合,2.0×10^<-17>m^2/sであったのに対し,BISを10wt.%添加することにより,0.1×10'17m2/sまで低下することが分かった。これはBISを架橋することにより,高分子の柔軟性が失われたためと考えられた。以上の結果は,この新規温度応答性吸着剤が,ドラッグデリバリーシステムや温度勾配クロマトグラフィーへ応用できることを示しており,今後の展開が期待される。
|