付着依存性である肝細胞の機能性培養技術は創薬における薬物代謝評価など様々な応用が期待される重要な技術である。本研究では細胞接着阻害効果を有するポリエチレングリコールと細胞接着性を有するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸配列からなる新規培養基材(PEG-GRGDS)を開発した。本培養基材を含む培地中に初代ラット肝細胞を懸濁させることで、細胞表面にPEG-GRGDSが結合した培養系が実現できた。細胞接着阻害効果はPEG鎖の伸長と共に向上し、分子量20000のPEG鎖において十分な細胞分散効果が得られた。この際、分散状態にある非接着培養単一肝細胞のアルブミン合成活性は機能性肝組織体であるスフェロイド培養と同等の高活性を発現できた。一方、フォトリソグラフィー技術により直径と深さが共に30マイクロメートルの小穴を有するポリジメチルシロキサン製の細胞チップを作製した。この小穴内には初代ラット肝細胞1個が収容できる。ホスホリルコリン基をメタクリル酸ポリマーに導入したMPCポリマーを用いて当該チップ表面の細胞非接着化処理を行い、非接着単一細胞培養を行った。分子量5000以上のPEG-GRGDSにより細胞骨格形成が有意に向上した。その結果、細胞は非接着培養単一細胞状態での培養が可能となった。さらに、薬物代謝活性の指標として用いたエトキシレゾルフィン脱エチル化反応が有意に向上した。以上より、肝細胞の非接着浮遊培養技術という全く新しい概念が創出でき、新たな細胞評価ツールとしての有効性が示された。
|