核融合プラズマを安定に維持するためには、プラズマと壁との相互作用の理解が重要であり、このためには壁の表面状態の変化に起因する壁中の水素の拡散、透過、吸蔵に対する理解が重要となる。本研究課題においては、水素透過計測システムと分光学的手法を用いて動的水素リテンションの評価法を確立することを目指している。本研究では、核融合炉のプラズマ対向材として考えられているタングステン材料に注目し、直径20mm、厚さ0.1mm、純度99.99%の多結晶タングステンの水素透過特性を評価した。マイクロ波によって生成されたプラズマをタングステン材料に照射し、タングステンを透過する粒子束が入射粒子束の3.6乗に比例して増加することを示した。この依存性には入射粒子束の増加とともに材料温度が上昇する効果が含まれている。また、材料中の水素拡散シミュレーションにより、トラップサイトのトラップエネルギーは1.4eV、密度は0.001%であることが明らかとなった。さらに、多結晶タングステンの圧延方向の違いによる水素吸蔵特性を評価し、プラズマ照射面に対して結晶粒の伸びの方向が垂直方向の材料の水素吸蔵量は平行方向のものに対して2~10倍高くなることが明らかとなった。この2種類の材料を再結晶化させ結晶粒の伸びの異方性を消失させた場合には、両者の水素吸蔵量は同程度となることを示した。プラズマ照射によりタングステン材料中に高エネルギーの欠陥が生成されること、プラズマ照射面に対して圧延方向の違う2種類の材料の水素吸蔵特性の違いは実効的な水素拡散係数の違いに起因していることが示唆された。
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