小角散乱分光法は様々な物質のナノ~サブミクロンの構造を非破壊で探索する手法として力を発揮している。入射ビームに中性子線を用いることで、工業的に重要だがX線では識別の難しい鉄、クロム、銅のような原子番号の近い元素の識別が容易なだけでなく、材料の磁性特性も測定できる。通常中性子小角散乱(SANS)の光学系はピンホールスリットが一般的であり、高分解能を目指した場合、中性子強度と分解能の関係から装置が大型化する。そこで中性子スピンの位相に注目して散乱角の測定利用するLarmor labelingと呼ばれる手法が提案されたが、試料はラーモア歳差磁場(鉄フォイル)の間に置くため本来中性子のメリットである磁気散乱による局所磁化の空間分布に関する情報を得ることが難しい。またフォイルを透過させるためそれ自体がバックグラウンドになること、分解能を上げるためはフォイルの厚みが均一かつ完全に飽和していなくてはならないこと等装置の問題もあり、原理的には面白いがなかなか従来のSANSを越える測定結果が出せないでいる。我々はJST先端計測分析技術・機器開発事業の支援を受けて高分解能MIEZE型スピンエコー分光器の開発に成功した。MIEZE型では試料の後方には検出器しか必要無いため、磁場環境からもフリーになり磁気散乱の測定も容易であり、この技術を応用し、中性子スピン位相の精密制御で小角散乱分光法の可能性を検討する。H21年は原子炉が6月末以降ほとんど稼働していなかったため、実験は出来なかったが、出来るだけ浅い入射角でも機能する共鳴スピンフリッパーを2つ準備し、自動測定化のためのコイル制御ユニットの開発を行った。また、本手法の適用範囲についての評価を行った
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