研究概要 |
本研究では、電離放射線によるイオン化によって凝縮相中に生成される電子が局在化する前の大きさ(準自由電子の波動関数の空間的広がりの程度)を明らかにすることを目的とする。特に、熱化電子の凝縮相における波動関数の空間的広がりの程度を知ることは、その後に続く放射線誘起反応を解明する上で非常に重要な問題であるが、凝縮相においてはイオン化で生成した電子は多くの場合数100fs以内に熱化し、1ps以内に何らかの形で局在化するため、局在化する前の電子の大きさを知ることは非常に困難である。本研究では実験により熱化電子の大きさを推定し、電離放射線が凝縮相に入射した直後(1ps以内)の準自由電子が関与した化学反応の記述を可能にする。 平成21年度は申請者が開発したフェムト秒パルスラジオリシス装置を用い、凝縮相の液体マトリクスとしてテトラヒドロフラン溶媒を用いることによりC37の分子構造依存性を測定した。テトラヒドロフラン中では水やアルコールと異なり、溶媒和前電子が測定されておらず、熱化した電子は直接テトラヒドロフランの溶媒シェルにトラップされ局在化し、溶媒和電子を形成すると考えられている。従って、この溶媒中で測定されるC37は熱化電子と電子捕捉剤の反応性を示すと考えられる。 [2-(Propylsulfonyloxyimino)-2,3-dihydrothiophene-3-ylidene](o-tollyl)acetonile, Di-1,3-(1-nonafulorobutylsulofonyliminyl)nonafulorobutyl]phennoxybutane, 2-[2-(Octylsulfonyloxyimino)-thiophene-3(2H)-ylidene]-2-methylphenyl)acetonile等14種類の電子捕捉剤のC37を明らかにした。シミュレーションでは、光学近似モデルからサムルールを適用して求められた20eVの低エネルギーまで適用可能な修正型ベーテ式、電子エネルギーロススペクトラ、光電子スペクトルを用いたモンテカルロシミュレーションコードを作製し、熱化電子と電子捕捉剤との反応半径を見積もることを可能とした。
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