本研究では、電離放射線によるイオン化によって凝縮相中に生成される電子が局在化する前の大きさ(準自由電子の波動関数の空間的広がりの程度)を明らかにすることを目的とする。特に、熱化電子の凝縮相における波動関数の空間的広がりの程度を知ることは、その後に続く放射線誘起反応を解明する上で非常に重要な問題であるが、凝縮相においてはイオン化で生成した電子は多くの場合数100fs以内に熱化し、1ps以内に何らかの形で局在化するため、局在化する前の電子の大きさを知ることは非常に困難である。本研究では実験により熱化電子の大きさを推定し、電離放射線が凝縮相に入射した直後(1ps以内)の準自由電子が関与した化学反応の記述を可能にする。 平成23年度(最終年度)は、初年度および2年度で行った実験の捕捉実験を行うとともに、これまでの2年間で得られた知見をまとめ、電離放射線入射直後の熱化電子と電子捕捉剤の反応の定式化を行い、イオン化による二次電子放出から熱化過程および熱化から電子が局在化するまでの間の電子の反応のシミュレーションを可能とした。エネルギー付与直後の反応中間体の空間分布、及び、その反応性は、電離放射線によって生成される最終生成物の量を大きく左右するため、その過程をシミュレーションにより定量的に議論・予測可能とした意義は大きい。
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