本研究は、動物行動学の分野で検証された「利他行動」および「血縁淘汰」の進化が、植物においても存在するという発想にたち、その実証へと導く第一歩とすることである。 初年度に当たる平成21年度は、以下に示す2つの「誘導防衛機構の解明」と「植物間コミュニケーションの適応的意義」に関して以下の調査・研究を行った。 ○野外生態調査 アメリカ合衆国カリフォルニア州のSagebrush (Artemisia tridentata)自生地(Sagehen Creek地区・Mammoth Lake地区)に5月、7月、9月の3回赴き調査を行った。 ○誘導防衛機構の解明 1)植食者の同定 先行研究では、sagebrushが食害を受けることは報告されているが、実際の植食者が明らかになっていなかった。本調査により、主な植食者は、バッタ類とアブラムシであることが明らかになった。 ○植物館コミュニケーションの適応的意義 1)植物間コミュニケーションに関する操作実験 野外に生育する個体を用いて、摘葉処理、同定されたHIPVs暴露処理、植食者除去などの野外操作実験処理を行い、適応度に関わる形質(生存率、生長量、種子生産量)を測定した。その結果、匂い成分には個体差があり、近縁個体同士は匂いの組成が類似すること。また、匂い組成が類似する個体間では、防衛反応が強く誘導されることが明らかになった。また、春の展葉期に食害をうけると、種子生産量が減少する一方で、夏の花序形成期に匂いを受容すると、成長および種子生産量が増加することが明らかになった。 2)HIPVsと個体の血縁度の関係 各生育地内に調査区(10×10m)を2つ設定し、各個体より葉の一部を採集し、マイクロサテライトマーカーをもちいた遺伝分析を行い、個体の近縁度を評価したところ、Sagebrushは種子繁殖のほか、地下茎の伸長による栄養繁殖も行っていることが明らかになった。
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