本研究の2年目(最終年度)は、「植物間コミュニケーションの適応的意義」に重点を置き、調査・研究を行った。野外生態調査および実験試料の採集は、昨年同様、アメリカ合衆国カリフォルニア州のsagebrush自生地で行った。 1.植物間コミュニケーションの季節変化:展葉期(5月)と開花期(7月)に匂い暴露処理を行ったところ、展葉期の処理では、防衛反応が認められたのに対し、開花期では花序および種子生産量が増大する傾向が認められた。このことより、匂いを受容する時期で、異なる反応を示すことが明らかになった。 2.匂いの組成と個体の血縁度の関係:生育地に10×10mの調査区を設定し、各個体の空間分布を記録した。調査区内の各個体に関して匂い組成(質・量)を明らかにするとともに、各個体より葉の一部を採集し、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝分析を行い、個体の近縁度を評価した。その結果、二次代謝物質の組成と遺伝的近縁度には、一定の相関関係が認められた。これは、sagebrushが種子繁殖の他に、地下茎によるクローン成長を行っていることと密接に関連していると考えられる。 3.実生の生存率に及ぼす匂いの効果:一斉に発芽した当年生の実生に対して、隣接する成熟個体の葉を切除し、匂い暴露処理を行った結果、匂いを暴露させなかった実生と比較して生存率が上昇する傾向が認められた。また、高さ10cm以下の幼個体に対しても同様の暴露処理を行い、食害の程度を測定したところ、匂いに暴露した幼個体で食害がより少ない傾向が見られた。以上のことから、sagebrushにおける植物間コミュニケーションは、生活史段階初期の実生および幼個体において、生存率や防衛反応を高める働きをしていることが示された。
|