研究概要 |
本研究はコハナバチ類において,「働きバチ」を人為的に育成することにより,社会性昆虫の最大の特徴である「カストシステム」の起源を明らかにすることを目的としている.コハナバチ類の原始的な真社会性(母娘共存型カスト社会)では,働きバチカストに属する娘バチの体サイズが母バチよりも小さい傾向にある.本研究では,自然状態において単独巣と社会性巣が同時同所的に併存することが知られている年2化性のフタモンカタコハナバチを材料とし,育房内の幼虫餌量を人為的に調整して小型メスを羽化させ,これらの繁殖能力をノーマルサイズのメスと比較することによって,働きバチの進化的条件の検討を行うことを目的としている.当該年度は第1世代のメスの体サイズを人為的に調整するため,育房内の幼虫餌の一部を除去することが可能な「体サイズ操作用人工巣」を開発し,これを用いてハチの飼養を行った.その結果,一部の巣において小型メスの育成に成功した.しかし,大半の巣では餌量調整を行った育房内にカビが発生し,幼態が死亡したため小型メスの羽化に至らなかった.これは幼虫餌除去の際,一時的に開放状態となった育房に空気中のカビ胞子が侵入したためと考えられる.営巣数が少なく,小型メスの繁殖能力を十分評価するには至らなかったが,次世代生産に成功した一部の小型メスはノーマルサイズのそれよりもその生産子孫数が少ない傾向にあった,また,営巣成功率も低くなる傾向がみられた.小型メスが示すこのような「ハンディキャップ」が母巣の継承営巣を促進し,結果として複メス状態を誘導することが示唆された.
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