研究概要 |
陸上植物は,重力に対する生理的・形態的な適応を通じて個体としての成長特性や構造特性が決定されている。これまでに,光や温度,水分や栄養塩類を変化させて植物を栽培する技術は非常に発達してきたが,重力(加速度)を変化させて栽培する技術はほとんど開発されていなかった。そこで,本計画においては,1)長期栽培可能な過重力栽培装置を作成し,2)その装置を用いた栽培方法を確立し,3)過重力栽培が植物に及ぼす生理生態学的影響を評価することを目的とした。本年度は,特開2007-330219に基づき,スイングローターを持つ回転するアームの中央部に光源を設置し,植物培養ポットを設置できるような構造を持つ過重力栽培装置の試作を行った。想定外の問題点としては,当初,栽培用ポットとして利用予定であったアグリポットが生産中止になり,代替えの栽培ポットも入手困難な状況に陥ったことで,次年度の課題となった。 シロイヌナズナを用いて10Gにおける長期栽培実験を行なった結果,長期的な過重力の影響は,植物の成長段階や器官により異なることが明らかになった。過重力によって花茎は伸長成長が抑制されたが、花茎の単位長さ当たりの乾燥重量やリグニン量の増加,肥大成長など構造的強化が促進された。これらの反応は重力ベクトルの方向にかかわらず生じた。花茎から伸張する茎生葉が小さくなることは過重力による負荷の回避につながると考えられた。他方、分枝の長さが増加したことは,花茎の成長が抑制されたことによる補償作用の可能性が考えられた。一方,もともと水平方向に展開するロゼット葉では、ロゼット葉形成後の過重力処理では、形態やリグニン量などに変化が起こらなかった。これらの反応は、風や接触などの機械的ストレスによる影響と類似していた。次年度は,本年度作成した過重力栽培装置を用いてより小さな過重力環境での栽培実験,およびシダ植物の前葉体などを用いた実験を行う予定である。
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