これまでに超長鎖脂肪酸の合成阻害が植物組織内部の細胞分裂を亢進させることが明らかになっていたが、この表現型がクチクラワックスの合成阻害に依るものかどうかは明らかでなかったので、平成22年度は超長鎖脂肪酸合成の阻害剤であるカフェンストロールで野生型シロイヌナズナを処理した際のクチクラ形成について電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、低濃度のカフェンストロール処理ではクチクラ層の形成異常が見られないにも関わらず、組織内側の細胞分裂は亢進することが明らかになった。そこで、この細胞分裂の亢進が維管束におけるサイトカイニン合成に由来するかどうかを明らかにするために、ATHB8プロモーターによりサイトカイニンオキシダーゼ(CKX)遺伝子を発現させ、維管束特異的に活性型サイトカイニンを分解させる実験を行った。その結果、この形質転換体ではカフェンストロール処理しても細胞分裂の亢進は起きないことが示された。一方、表皮特異的なプロモーターでCKX遺伝子を発現させると、細胞分裂の亢進が野生型植物と同様に見られた。以上の結果から、表皮で合成される超長鎖脂肪酸が維管束でのサイトカイニン合成を抑制し、それにより組織内側での細胞分裂を抑制していることが示された。この結果は、表皮から植物体の軸である維管束に向けて何らかの未知のシグナルが流れ、これがサイトカイニン合成を抑制し細胞増殖活性を一定レベルで抑えていることを示唆するものであり、器官サイズを制御する新奇な制御機構と言える。
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