平成23年度は前年度と同様に日本の温帯域に生息するイシサンゴ類に特異的に生息するサンゴヤドリガニを主体にして研究を行った。日本の温帯域を中心にサンゴヤドリガニとその宿主であるイシサンゴを採集し、ミトコンドリアCOI遺伝子を用いた分子生物学的手法およびサンゴヤドリガニの形態について解析した。前年度から採集数と解析数を増やすことで、イシサンゴ類のウミバラ科とオオトゲサンゴ科には科特異的に別々のサンゴヤドリガニが生息していることが明らかとなった。さらに、この両科のイシサンゴ類が遺伝的に近縁であると同時に共生しているサンゴヤドリガニについても遺伝的に近縁であったことから、イシサンゴ類とサンゴヤドリガニが共進化していることも明らかとなってきた。興味深いことに熱帯・亜熱帯域のイシサンゴ類に比べ、温帯域のイシサンゴ類に、より多くのサンゴヤドリガニが生息している傾向が見られた。さらに、温帯域に特異的に生息しているイシサンゴ類の1種であるアマクサオオトゲキクメイシにはサンゴヤドリガニの独自種が共生していることも判明した。しかも、未記載種である可能性が非常に高い。 一方、温帯域のイシサンゴ類の共生関係における特異性を見るために、イシサンゴ類の主要な共生藻である褐虫藻について温帯域から採集したイシサンゴ類を用いて核のリボソーマル遺伝子を用いて解析したところ、温帯域に生息するイシサンゴ類の褐虫藻は温帯に異的であることが判明した。 以上のことから、温帯域では、多くの部分でイシサンゴ類に共生している生物が温帯独自に特化した可能性を示した。
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