小分子RNA(sRNA)による転写後の遺伝子発現調節機構が大腸菌からヒトに至る多くの生物において発見され、細胞の環境応答や発生、分化などを支配している。大腸菌のグルコーストランスポーター遺伝子(ptsG)の発現が解糖系中間代謝産物の蓄積により転写後段階で抑制されるという発見を契機に一連の研究を展開し、この制御に関わるSgrS RNAがsRNAの作動原理の理解にとって有力であることを明らかにしてきた。本研究では、SgrS/ptsG系についてのこれまでの研究成果を踏まえ、原核生物におけるsRNAによる人為的遺伝子ノックダウン系の構築を目指す。平成21年度の研究では、以下の成果を得た。1)SgrSは全長が220ntからなるRNA分子であるが、ptsG mRNAと塩基対を形成する領域は3'末端に近い30ntである。この領域を欠失させた欠失SgrSはptsG mRNAの抑制能を失うが、Hfqとの結合を示す。2)このことは、SgrS内で塩基対形成領域以外の領域にSgrSとHfqとの結合領域が存在することを示しているので、この欠失SgrSが人為的遺伝子発現抑制を担うコアsRNAとして使用した。3)上述したコアsRNA内に種々のmRNAの翻訳開始領域と相補的な30ntをクローニングし、IPTGにより発現誘導できる系をplasmid上に構築した。4)sRNAにより抑制されることが明らかになっているmRNAは組換SgrSによっても影響を受けやすいと考え、それらのmRNAの翻訳開始領域に相補的な配列を挿入した一連のを組換SgrSを構築し、標的mRNAの発現をNorthern blotting、およびWestern blottingにより解析したところ、いずれも効果的な抑制作用が観察できた。この結果は、人為的遺伝子ノックダウン系の構築への大きな前進である。
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