小分子RNA(sRNA)による転写後の遺伝子発現調節機構が大腸菌からヒトに至る多くの生物において発見され、細胞の環境応答や発生、分化などを支配している。大腸菌のグルコーストランスポーター遺伝子(ptsG)の発現が解糖系中間代謝産物の蓄積により転写後段階で抑制されるという発見を契機に一連の研究を展開し、この制御に関わるSgrS RNAがsRNAの作動原理の理解にとって有力であることを明らかにしてきた。本研究では、SgrSをモデル系として、原核生物におけるsRNAによる人為的遺伝子ノックダウン系の構築を目指す。平成22年度までに以下の成果を得た。1)SgrSは全長が227ntからなるRNA分子であるが、168-227領域からなる60ntのSgrS-Sが完全な活性を示すことを明らかにした。2)塩基対形成に必要な最小の領域は168-181の14ntであること、したがって、転写終結領域を含む182-227にHfqとの結合領域が存在することを明らかにした。3)実際に、転写終結シグナルの1つの要素であるpolyU tailがHfq結合部位であることを発見した。4)SgrS-Sの塩基対形成領域内に種々のmRNAの翻訳開始領域と相補的な30ntをクローニングし、IPTGにより発現誘導できる一連のを組換SgrSを構築し、標的mRNAの発現をNorthern blotting、およびWestern blottingにより解析したところ、いずれも効果的な抑制作用がみられた。すなわち人為的遺伝子ノックダウン系の構築に成功した。
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