蛋白質のダイナミクスを1分子レベルで実験を行うために最適のチャネル分子を使って、脂質平面膜法による単一チャネル電流測定を行った。対象としたチャネルはKcsAカリウムチャネルである。これは結晶構造が明らかになっているだけではなく、私達が最近構造ダイナミクスに関する新しいデータを得た唯一のチャネル蛋白質である。本研究では脂質平面膜に厳密に1分子だけが存在する条件での実験を行った。さらにpH依存性ゲーティング機構を明らかにするための高精度の実験系を確立することができた。これは予想をはるかに超えて難しい実験であったが、この困難な実験を行うことによって重要なゲーティングに関する情報を得ることができた。特にpH依存性ゲーティングに関して、2009年に解明されたKcsAチャネルの全長構造を参考にしつつ、その分子機構を検討しつつある。さらにチェンバー法では困難な急速溶液置換法(すでに開発済み)を適用できるように、KcsAチャネルをリポソームに再構成し、リポソームパッチ法を確立した。溶液置換速度が数ミリ秒以内に可能となり、定常状態の測定以外に過渡的応答を測定することが可能となった。一方、すでに確立した1分子蛋白質構造変化測定法(DXT法)の時間分解能を改善するために、フランスとスイスの高輝度放射光施設での実験を行い、従来の毎秒30フレームから毎秒5000フレームにまで上げることに成功した。1分子レベルでの構造と機能のデータを解析するための手法を開発していきたい。
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