本研究ではレーザー誘起表面変位法による計測装置を試作、これを顕微鏡に導入し、非接触で細胞内小器官である核膜の張力計測を行うことを目的とする。高等真核生物の核膜には、ラミンからなる格子状フィラメントによる裏打ち構造が存在する一方、酵母の核膜は裏打ち構造がないにも関わらず球状構造を保っており、その詳細な機構はまだ明らかでない。さらに核が分裂する際に、高等真核生物と異なり核膜が消失せず、急速に伸張するが、その機構もほとんど分かっていない。これらの形態変化とその力学的物性の相関は大変基本項目であるにも関わらず、その測定例はないのは、測定対象が細胞内に存在するため、非接触での計測が必要であるが、そのような装置が世の中にないためである。 初年度であった平成21年度は、まず、ベースとなる装置開発にあたった。最初の半年間で装置を組み上げ、実際に光圧により非接触で表面張力を計測することに成功した。具体的には水やテトラデカン(炭素鎖数を生体膜のリン脂質のものと一致させた)表界面で、張力を測定し、誤差5%以内程度で、接触法と同等の計測値を得た。非接触で張力が測定できるころが検証した。さらに、生体膜の主要成分であるホスファチジルコリンの単分子膜にも適用し、その張力測定に成功した。その過程で的の空間分解能(1ミクロン)を出すためには、検出方式がロックインアンプ方式であると検出する周波数領域が装置の適正な上限を上回るため、ヘテロダイン方式が有効であるとの判断に達し、後半はヘテロダイン方式による検出方式を開発、顕微鏡への組み込みを開始した。平成22年度は上記装置を実際の細胞系に適用する。
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