細胞内のORCが結合するRNAを探索する上で、ORCのRNA結合の性質を詳細に知ることは重要である。そこで私らは、組換え体ヒトORCを調製し、蛍光RNAをプローブとしたゲルシフト法によってORCのRNA結合活性を解析した。その結果、精製したORCが40-merのGU-richのRNAに結合することが明らかとなった。一方、同じ結合反応条件でのAC-richのRNAとの結合は認められなかった。ORCとGU-rich RNAとの複合体形成はATPによって促進され、また、ATPのアナログであるATPγSやAMP-PNPでも、程度は低いものの促進が見られた。したがって、ORCによるATPの加水分解がORCのRNA結合に関与すると考えられる。 さらに塩基配列特異性を競合実験によって解析したところ、ORCの親和性の高いと報告されているAT-richの40-mer一本鎖あるいは2本鎖DNAよりも、40-mer GU-rich RNAの方により結合親和性があることが分かった。なお、この塩基配列特異性は、EBウイルスの複製開始点結合因子であるEBNA1のRNA結合の特異性とよく似ており、ORCのRNA結合の生理的な意義を考える上でも興味深い。 ORCのDNA結合に対するRNAの影響について、プラスミドを固定したビーズを用いて解析したところ、あらかじめGU-rich RNAをDNAとプレインキュベートすると、ORCのプラスミドビーズへの結合が顕著に増加するという、予想外の興味深い結果が得られた。この結果は、何らかの特異的なRNAがDNAと直接相互作用し、ORCを引きつけるような高親和性のRNA-DNA構造体が形成される可能性を示唆する。そして、この現象は哺乳動物ゲノムにおける複製開始点の形成に関わる可能性もある。今後、このRNA-DNA複合体の実体を明らかにすることが必要と考えられる。
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