高等生物の核内は高度にコンパートメント化され、核内における様々な分子の空間的局在は生物学的機能に相関がある。特に核辺縁部のラミナ周辺は転写抑制性のコンパートメントであり、ここに局在する遺伝子座はHDACによるヒストン脱アセチル化を経て、転写が不活性な状態に維持される事が知られる。しかし、分子を核辺縁に局在させる為の分子機構については未だ不明な点が多い。 本研究において、我々は様々な細胞内成分の分画法を用い、(1).ラミナにはチュブリンタンパク質が含まれること。(2).チュブリンはラミナ上で紐状の構造体を形成する事を見出した。この紐状構造とDNAの結合を解析したところ、ラミナと結合している遺伝子座の多くがチュブリン紐状構造ともまた結合していることが明らかとなった。この紐状構造を破壊した細胞では、DNAとラミナの結合の大半が失われ、またHDACのラミナ近傍への局在も大きく障害された。その結果、DNAとHDACの会合が阻害され、核辺縁部全体にヒストンのアセチル化の亢進が観察された。すなわち、チュブリン紐状構造はDNAとHDACがラミナへ結合する足場であり、これらの局在を決定することで、核辺縁部に転写抑制のための領域を形成することが明らかとなった。 転写活性の制御には、DNA配列、転写因子、ヒストン修飾など様々な規模での機構が重層的に機能している。核内の特定の位置に特定の機能のコンパートメントを作ることもその一つであり、また最も大規模なものである。本研究は、辺縁部におけるコンパートメント形成の新たな分子メカニズムを明らかとし、またこれまで細胞質において局在・機能すると考えられてきたチュブリンの新たな特性を示したものである。
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