高等生物の核膜の内側は核ラミナと呼ばれる重合タンパク質構造により裏打ちされている。ラミナは特定のクロマチン領域と結合し、これら遺伝子座は概して転写活性が抑制されることが知られている。一方、ラミナはHDACをはじめとして複数のクロマチン制御因子・転写制御因子と結合することも知られている。ラミナの近傍ではヒストンのアセチル化が抑制されており、また、ラミナ結合遺伝子の転写活性がヒストンアセチル化に依存的であることを総合すると、ラミナへのクロマチン、HDACの分子結合は、核内においてヒストン脱アセチル化反応ならびにそれを通じた転写抑制を効率的に行うマイクロドメインの形成に必須の機構であると考えられる。しかしながら、ラミナとこれら核内分子の結合機序はいまだ不明点が多い。我々はラミナにチュブリンタンパク質が結合しており、これがラミナ-クロマチン、ラミナ-HDACの結合に必須であることを示した。ラミナからチュブリンを失わせるとクロマチン、HDACはラミナから解離し、ラミナ近傍でのヒストンアセチル化の亢進が観察された。我々の研究は、核内におけるラミナと核内分子の結合の足場という、チュブリンタンパク質の新たな機能を証明した。また、チュブリンタンパク質のラミナへの結合を操作することで、内因性の核内分子の局在およびクロマチン状態が変化するという事実は、チュブリンを標的とした様々な既存の薬剤の新たな利用法を提示するものである。
|