環境変化に応じて2つの生殖機構を使い分けるミジンコ(Daphnia pulex)を材料に、生殖機構の切り換えのために卵形成過程のどの段階がどのように変更されているのかを明らかにすることを目的に研究を行った。従来、ミジンコの単為生殖は体細胞分裂で形成された2倍体卵が発生し、親と同じクローンが生じるアポミクシス型であると言われてきたが、先行研究論文にはそれを結論できるほどの明快な形態学的証拠は示されていない。そこで、21年度研究で単為生殖過程を組織形態学的に詳細に解析した結果、ミジンコの単為発生卵は「減数しない減数分裂」で作られた2倍体卵が発生するオートミクシス型であることを示す結果が得られた。この過程では、卵形成の最終段階において減数分裂の特徴である相同染色体の対合が起こり減数分裂が開始されるが、第1分裂の後期で分裂が停止し染色体はいったん赤道面に戻る。その後、再配列した染色体が第2減数分裂に相当する分裂を行うことで2倍体卵ができる。この結果に基づき、我々は次のような生殖機構転換モデル仮説を導いた。「成熟卵に精子が侵入し受精が成立すると正常な減数分裂が起こり有性発生が開始されるが、受精しなかった場合には第1減数分裂の途中で分裂が停止、その後第2減数分裂に相当する分裂が起こり単為発生を開始する。」これらの成果は、すでに国際甲殻類学会および日本動物学会で発表され、国際誌にも投稿中である。今後は、上記の仮説を検証するため、ミジンコにおける受精の有無とその後に進行する減数分裂過程の詳細を解析する。最終的には、受精の有無という入力の差によって異なる減数分裂を進行させることで単為生殖の出現を導いた細胞内情報伝達系の進化過程を明らかにしたい。
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