マウスES細胞懸濁液を浮遊培養すると、胚様体と呼ばれる凝集体を形成することが知られている。本研究代表者はマウス初期発生胚に近い性質の胚様体を得ることを目的とし、既報の胚様体形成法を試し、最初に形態観察で比較した。培地はDMEMにウシ血清を加えたものを使用した。Feeder細胞上にてLIF含有培地で培養したES細胞をtrypsinizeし、その懸濁液をLIF不含培地で浮遊培養およびhanging drop培養を行ったが、臓側内胚葉様の細胞層の形成がほとんど見られないだけでなく、内側の細胞は胚盤葉下層様の形態を示さなかった。そこで今度はtrypsinizeしたES細胞をLIF不含培地で接着培養し、三日後に短時間のtrypsin処理で得られた細胞凝集体をLIF不含培地で浮遊培養した。この条件では臓側内胚葉様の細胞層の形成が高頻度に見られ、内側の細胞は胚盤葉下層様の円柱上皮形態を示した。以後、この条件で胚様体を作製し、各種マーカ遺伝子の発現をin situ hybridization法で調べ、初期発生胚の発現パターンと比較した。臓側内胚葉マーカは浮遊培養開始後1日(d1)より発現が見られ、d3までに最外層に限局した。内部細胞塊マーカはd3より発現の低下が見られ、内層で胚盤葉下層マーカの発現に置き換わっていくのが観察された。後者はd6より発現が低下し、それと呼応するように中胚葉マーカの発現が内層で観察された。このように、本法で作製した胚様体は、初期発生胚と同様の発現パターンと時間変化を示すことが明らかになった。
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