モデル生物を用いた順遺伝学的な解析方法は、発生学、基礎医学などの研究に有効である。しかしながら、順遺伝学を用いた研究が実施できるのは、ごく限られた動物種においてのみである。特に問題なのは、冠輪動物には、順遺伝学的なアプローチを用いることができる種が存在しない点である。 この問題を解決するために、冠輪動物の軟体動物門に属するヒラマキガイ(Biomphalaria glabrata)を順遺伝学のモデル生物の候補として選び、突然変異誘発、表現型のスクリーニング、突然変異の責任遺伝子同定を行う。これらのアプローチによって、ヒラマキガイを遺伝学のモデル動物とするための基盤を整備するのが本研究の目的である。 平成21年度の研究において、Biomphalaria glabrataを用いた突然変異の誘発のプロトコールを確立した。平成22年度の研究では、この方法を用いて、大規模な突然変異誘発をスタートさせた。Biomphalaria glabrataを1mMのENU(N-ethy1-N-nitrosourea)(突然変異誘発物質)で処理し、約100のF1個体を得た。F1を自家受精させて得られたF2ファミリーの個体の1/4は、誘発された突然変異のホモ接合体であると予測できる。約半数のF2胚で発生異常が認められた。発生異常を示したF2ファミリーのうち、表現型を示さないヘテロ接合体を自家受精させ、F3を得た。得られた22のF3ファミリーのうち、8ファミリーでは、F2と同じ表現型が得られた。この結果は、これらの8ファミリーが、発生異常を示す突然変異系統であることを示している。本研究によって、Biomphalaria glabrataを用いた大規模な突然変異誘発が可能であることが示された。
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