申請者はこれまで、ヒトデ幼生の免疫細胞である間充織細胞の同種移植系を確立し、間充織細胞が同種細胞を特異的に認識し、認識できないものをすべて異物と見なす認識システムによって生体防御を行っていることを明らかにしていた。さらに本研究で、ヒトデ成体の免疫細胞である体腔細胞の同種移植系の確立に成功し、ヒトデ成体では、同種異個体由来の体腔細胞は移植後速やかにレシピエントの体腔細胞によって貧食や包囲化といった攻撃を受けることを明らかにした。これらの事実は、ヒトデにおいて、幼生の種特異性認識による免疫系が、成体に変態することにより同種異個体認識による免疫系へと変化していることを示している。この認識システムの変化の実体を分子レベルで明らかにするために、Suppression Subtractive Hybridization(SSH)法により両者の自然免疫関連分子レパートリーの比較解析を試みた。SSH法によって得られた遺伝子断片に関して、間充織細胞特異的に検出された192クローン、体腔細胞特異的な384クローンをシークエンスしたところ、驚くべきことに、それぞれに特異的に発現している遺伝子中に、ヒトをはじめ他の動物種でよく知られている免疫関連遺伝子はほとんど含まれていなかった。この結果から、幼生の間充織細胞及び成体の体腔細胞の免疫レパートリーはその大部分が共通であるだけでなく、両者の認識システムを司るキーファクターはヒトデに特有の分子であると考えられる。一方、SSH法の結果から、体腔細胞においてNotch-Deltaシグナルカスケードに関与すると考えられる遺伝子が比較的多くヒットした。体腔細胞の同種異個体移植系において、レシピエントの体腔細胞数が移植後速やかに増加したことから、体腔細胞では認識システムの下流にNotch-Delta系が存在し、体腔細胞の供給を制御していることが示唆された。
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