研究概要 |
イネにおいて土壌の乾燥,塩害,フェーンなどの非生物的ストレスにともない白穂が発生すると,著しく不稔が発生し,収量が減少する.土壌の乾燥にともなう白穂の発生は穂の乾燥によると考えられていると同時に,発生の難易に品種間差があることが知られてる.一般に,この品種間差は穂の水分特性と関係がなく,植物体の水分状態を良好に維持する能力,例えば,根をよく張ることによって土壌の水分を確保することによっていると考えられている.しかし本当に穂の水分特性が白穂発生の難易と関係がないかどうかは十分に検証されていない.そこで本研究では新たに遠赤外線で見出される穂の乾燥特性と土壌乾燥による白穂発生の難易との関係を検討した. 土壌を詰めたポットに水稲と陸稲各2品種を栽培し,出穂期にポットの水を排水するとともに給水を停止することによって土壌を乾燥させた.水稲と陸稲ともに土壌の乾燥にともない白穂が発生した.白穂は穂の水分含有率の低下したがい発生し,白穂が発生する水分含有率は水稲と陸稲で変わらなかった.ただし,植物体の水分含有率に対する穂のそれの低下程度は水稲に比べて陸稲で大きく,陸稲の穂の方が乾燥しやすかった.このため,植物体の乾燥に対する白穂の発生程度は陸稲のほうが大であった.一方,遠赤外線乾燥法で穂の乾燥特性を調べたところ,乾燥開始後速い速度で失われる水と乾燥が進んでからゆっくりと失われる水に分けられた.穂の乾燥速度はどちらの成分の水分についても陸稲の方が水稲より失われやすかった.したがって,遠赤外線乾燥法によって見出される速い乾燥特性の穂を持つ品種は,土壌乾燥に対して白穂を発生させやすいと考えられた. ところで,穂全体の水分は日没後増加し,夜明け後に低下することが見出された.この変化は遠赤外線乾燥法で乾燥開始後速い速度で失われる水分の変化のみによっており,乾燥が進んでから失われる水分は日変化しないことを見出した.
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