研究概要 |
マメ科植物は根粒菌と共生して窒素固定を行うが,低温条件や養分ストレス条件下では根粒形成が抑制され,根粒着生数の減少や窒素固定活性の低下が生じる.そこで根粒形成遺伝子(nod)の転写を活性化するフラボノイドを含む培地で根粒菌を前培養(プライミング)した際のウスイエンドウの根粒着生について検討した.最終年の23年度は21,22年度の結果を踏まえ,プライミングが根系構造に及ぼす影響を詳細に調査し,また,プライミング根粒菌の感染の優先性を評価するツールとして発色標識遺伝子であるβグルクロニダーゼ遺伝子(gusA)を根粒菌に導入し,その挙動を追うことでプライミング効果を検証することを試みた.先ず,根系への影響については,6日齢実生にナリンゲニンでプライミングしたU1001-PS系統を接種したところ,対照区に比べて2次側根数が減少し,前年度に認められた総根長の増加が1次側根数の増加によるものであることが示された.プライミング区における根粒着生数の増大は,本来生じる二次側根の形成が阻害されることとのトレードオフの関係によって生じる可能性が示唆された.gusAの導入には,E.coli S-17-1λpir(pCAM121にGUS transposonのmTn5SSgusA21を保有)とU1011P-1との間での接合伝達法を用いた.形質転換した根粒菌をエンドウに接種して青色発色した根粒数を調査したが非形質転換株との1:1の対応関係が認められず,本菌株はプライミング効果を評価するためのツールとしては必ずしも十分ではなかった.現在,複数の根粒菌株への導入を試みているところである.3カ年の成果をエンドウの低投入型の栽培技術へ応用するためにはさらなる検討課題が残されたが,フラボノイドのプライミングによる根粒形成制御の可能性について基礎的な知見は示すことができた.
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