研究概要 |
緑化に多用され、広域分布する樹木について系統地理学的研究を速やかに遂行できる体制の確立を目的として、福岡、佐賀、広島、岡山、鳥取、富山、福井、滋賀、和歌山、長野、静岡、群馬県において、ブナ科の常緑コナラ属(アカガシ・アラカシ、イチイガシ、ウラジロガシ、シラカシ、ツクバネガシ)、スダジイ、マンサク科のイスノキ、クスノキ科のクスノキ、タブノキ、カゴノキ、カツラ科のカツラ、バラ科のエドヒガンを採集し、葉緑体DNAの遺伝子間領域(trnT-trnL,trnL intron,trnL-trnF,trnV-trnM,petG-trnP,trnS-trnfM,rpl16-rpl14)の塩基配列からハプロタイプを決定した。 カツラについては以前よりの継続研究で、本年度は静岡県を中心に調査し、東北型と南西型に大別されるハプロタイプの境界を明らかにした。 常緑樹については、ブナ科の配列同士とクスノキ科の配列同士の類似度は高かったが、ブナ科、クスノキ科、マンサク科の間では大きく異なった。同じ科の個体間には多型が見られ、ブナ科では5種類、クスノキ科では3種類の葉緑体ハプロタイプに分類できた。このとき、各ハプロタイプの『基準個体』を選定し、今後のハプロタイプ命名の基準とした。これらのハプロタイプは、ブナ科とクスノキ科で特徴的な種間スペクトルを不した。ブナ科においては種内変異が見られ、それらが種間で共有されていることが顕著であった。あるハプロタイプはスダジイとアラカシの間で属を超えて共有されていた。ブナ科においては和歌山県でハプロタイプの多様性が高く、それ以外の地域では低くなっていることが判明した。 一方、クスノキ科においては採集地に関わらず種内変異はなかった。また、種間でハプロタイプが共有されることもなかった。
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