研究概要 |
植物の葉表面や葉組織には微生物が生息し、植物や病原微生物と相互作用することによって、植物の生育や様々な環境ストレス・病虫害に対する耐性に関わっているものと推察されている。しかし、実際の自然環境中において、難培養性微生物を含めてどのような微生物種が生息し、植物や病原微生物とどのように関わっているのかはほとんど明らかになっていない。前年度の研究において、イネ細胞間隙液に含まれる微生物集団を培養することにより得られたコロニーから、16SrDNA塩基配列に基づき、Pseudomonas sp.を分離した。そこで本年度は、同細菌をイネに施用することにより、いもち病などの病害誘導が抑制あるいは助長されるか解析を行った。(1)有機栽培イネに特徴的な微生物を施用したイネにおけるいもち病抑制活性の評価: 有機栽培に特徴的な7菌株をそれぞれ処理した5葉期のイネを用いて、葉鞘接種検定により、いもち病菌侵入率への影響を調べた。その結果、AZ2株(Pseudomonas sp.)処理によっていもち病菌侵入率が有意に低下した。さらに、いもち病菌28S rDNA量からいもち病菌バイオマスを推定したところ、比較無処理区に対してAZ2株処理区ではいもち病菌のバイオマスが減少する傾向が認められたことから、有機栽培イネの細胞間隙液に存在する菌株の中には、いもち病菌に感染、増殖に抑制的な働きをもつものが存在している可能性が考えられた。(2)有機栽培イネに特徴的な微生物のイネもみ枯細菌病菌による苗腐敗症の抑制効果の解析: 有機栽培に特徴的な内生細菌がイネの生育初期に比較的多く認められたことから、苗病害に対する効果を評価した。イネもみ枯細菌病菌による苗腐敗症に対して、Bacillus sp., Curtobacterium sp., Acinetobacter sp.と推定される内生細菌を施用した場合に発病度が抑制されることが示唆された。また、有機栽培の育苗土にもイネもみ枯細菌病抑制効果が認められ、この効果はオートクレープ処理により失われたことから、何らかの生物的要因による効果と推定された。
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