カイコに代表される鱗翅目昆虫や毛翅目、半翅目昆虫は、1染色体に多数の動原体を有する特異な分散型動原体と呼ばれる染色体を持つことが知られている。しかもカイコゲノムからは、セントロメアタンパク質の多くが欠失しており、そのキネトコアの形成機構には謎が多い。本年度は、カイコゲノムに残るセントロメア、キネトコア形成、紡錘糸付着に関わるタンパク質の多くを同定した。まず、効率的な遺伝子機能阻害実験を行うために、線虫SID-1遺伝子を導入したカイコ培養細胞を樹立し、dsRNAを培地に加えるだけでRNAi誘導が可能な細胞を作製した。この細胞を用いて、セントロメア形成に関わるタンパク質として同定した、Cenp-S、Cenp-X、Cenp-N(Mis15)、紡錘糸付着とチェックポイントに関わるタンパク質KLN1、Mis12、MAD2、また、細胞分裂期に一過性にセントロメアに局在し、キネトコアの一部となる細胞分裂染色体パッセンジャータンパク質複合体(CPC : INCENP、BorealinとSurvivin)についてRNAi法を用いた遺伝子機能阻害実験を行い、その細胞分裂時の表現型よりこれらの機能を明らかにした。その結果、KLN1を除く全ての遺伝子について、遺伝子機能阻害により染色体の分裂異常や細胞周期の停止が認められた。また、CPCの遺伝子機能阻害により顕著な核相の倍数化が観察された。 特に、分散型動原体という特殊な構造より、スピンドルチェックポイント機能は失われていると想定していたが、Mis12抑制下でのMAD2遺伝子機能阻害実験により、カイコでもスピンドルチェックポイント機構が機能していることが示唆された。
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