本研究はホウ素欠乏条件で栽培した植物の後代にヘテロ接合体のみが現れる現象を解明することを目的に進めている。この現象はシロイヌナズナの排出型ホウ素トランスポーターの一つBOR6にT-DNA挿入をもつ変異株の解析中に偶然見られたものである。この変異株のT-DNAについてのヘテロ接合体を自家受粉させると、ほぼ全ての後代がT-DNAについてのヘテロ接合体になっていることが見いだされた。この現象は通常のメンデル遺伝では説明できない。また、全ての後代がヘテロ接合体になっている訳ではなく、少数ながらT-DNAをホモに持つものや全く持たないものが出現した。このことはこの現象が致死変異によって起こっている訳ではないことを示している。また、この性質を持つ系統は後代でも同様の性質を示すことを明らかにしていた。 ホウ素はこれまでの長年の研究によって植物の生殖成長に重要であることが示されてきていおり、BOR6は花粉管で発現するホウ素トランスポーターであり、ホウ素の役割という観点からも興味深い。本年度はこの現象が如何におこっているかを解明するために、この現象がホウ素栄養条件によってどのように影響をうけるか、ということと、シロイヌナズナのLer系統との掛け合わせを行い、後代の検定を進めていった。その結果、ヘテロ接合体が多数出現する現象は培地にホウ素を十分に与えても起こることが明らかになった。また、Ler系統との掛け合わせを行い、BOR6にT-DNAが挿入された遺伝子座を持つF1植物を選抜し、その後代でのT-DNAの分離をPCRによって調べたところ、F2ではヘテロ接合体の出現頻度はメンデル遺伝で想定される50%程度であった。
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