殺虫性微生物Bacillus thuringiensis (Bt菌)株から、がん細胞に作用する新しい毒素パラスポリンが発見された。本研究ではバイオメディカル資源となり得る様々なBt菌を探索し、新たな抗がんタンパク質の発見、さらに抗病原寄生虫への毒素を探しトリパノソーマなどのアフリカ大陸などに蔓延する重篤な寄生虫病の予防、治療へバイオシーズとすることを目標としている。本年度はBt菌の簡便な判別法とBt菌ライブラリーからの毒性タンパク質の効率的な抽出方法の確立を目標とした。Bt菌は栄養飢餓条件下で胞子形成とともに特異的な結晶状のタンパク凝集体を蓄積する。そこで、栄養飢餓条件下のBt菌にタンパク質結合性色素を作用させたところ、着色やコントラストから凝集体の判別が顕微鏡で容易に行えることを発見した。この方法を用いてセレウス菌群536個のコロニーの中から、これまでに比べ簡便で迅速にBt菌を検出することができ、今回、新たに14株のBt菌を発見した。また胞子形成培地の組成を検討したところ、栄養培地から胞子形成培地に変えて2、3日程度で胞子と凝集体が確認でき、これまでの方法に比べ約5倍早くBt菌の確認行うことができた。一方、約5000株のBt菌のコレクションから96の菌株を同時にハイスループットに培養し、毒素を抽出する方法を開発した。現在1000株の抗がん性スクリーニングからヒトすい臓がんに作用する数株を発見した。一方、アフリカなど熱帯地域で蔓延するトリパノソーマ感染症の対策として、抗原虫作用性のBt菌毒素活性としてパラスポリン2(PS2)を用いて解析した。この結果、PS2は血流型、唾液腺型トリパノソーマに対して比較的弱いながら毒性を示すことがわかった。
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