ニワトリやウズラは性行動の解析に用いられ、脳内視索前野付近にオス・メスで大きさの異なる神経核が存在する。我々は鳥類トランスジェニック技術を用い、アロマターゼ遺伝子をウズラやニワトリに導入することにより、二型核形成との相関を解析しようと考えた。前年度迄に作製し、動物培養細胞で発現特異性を確認したシナプシン1及びネスチンプロモーターによりアロマターゼを発現するレンチウイルスベクターをウズラ胚盤葉に感染し、キメラ個体の作製を試みた。ヒトシナプシンプロモーターでアロマターゼが発現するpSicoR/hsyn/Aro-mycならびにマウスネスチンエンハンサーで神経特異的発現が可能なpSicoR/mnes-tk/Aro-mycベクターを10^8cfu/mlの高濃度に調製し、ウズラ胚盤葉に卵殻に開けた穴より感染し、穴をシール後7日間培養した。それぞれのベクターを8個づつの卵に感染した。7日間培養後肝臓及び脳を分離、DNA及びRNAを調製した。pSicoR/mnes-tk/Aro-mycの場合7個の胚に導入遺伝子が確認され、その細胞あたりのコピー数は0.002~0.025と個体差が大きかった。一方、pSicoR/hsyn/Aro-mycの場合、すべての胚から導入遺伝子が検出されコピー数は0.0002~0.0035であった。RT-PCRにより、アロマターゼmRNAの発現を調べた所、ネスチンプロモーターでは5個体で発現が確認されたが、2個体では肝臓での発現が高く、3個体では脳にのみ発現が見られ、組織特異性という面から疑問が残った。一方、pSicoR/hsyn/Aro-mycでも5個体で発現が見られたが脳でのみ発現が見られたのは2個体であった。この実験では必ずしもクリアーな組織特異性が見られなかったが、原因としてウイルスベクターの感染効率の悪さなどが想定される。今後この点を改良した後、アロマターゼの脳のオス・メス特異的形態の形成に関する役割りを証明する予定である。
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