再生医療の研究は、「いかに多能性幹細胞を得るか」という点が主題であったが、京都大学の山中らが様々な細胞に4つの転写因子、すなわちOct3/4、 Sox2、 c-Myc、 Klf4を導入することにより、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell : iPS細胞)を樹立できることを報告し、全世界的なターニングポイントを迎えた。現在は、多能性幹細胞を効率よく目的の方向に分化させる研究や、分化と脱分化のメカニズムの研究に焦点が移っているものの、良いモデルとなる実験系が存在しない。そこで、本研究では、遺伝子発現誘導の最新技術と発生工学を組み合わせて、再生医療研究の革新的なモデル動物を作成することを目的とした。 多能性幹細胞の樹立に重要な4つの転写因子(Oct3/4、 Sox2、 c-Myc、 Klf4)と温度感受性のSV40 Large T antigen(tsT-antigen)をDox(テトラサイクリンの誘導体)で厳密に発現コントロールできる新規の誘導型遺伝子発現ベクターを作成した。ここで、tsT-antigenは、通常の体温である37℃で培養すると、すぐに分解されてしまって機能しないが、33℃で培養するとT-antigenとしての機能を発揮する温度感受性変異が入ったタンパク質である。1年目は、培養細胞レベルで新規誘導型発現ベクターを評価するため、調節ユニットと応答ユニットの両方を同時に導入し、細胞レベルでの応答を確認したところ、期待通りに機能することが確認された。2年目として、受精卵へのマイクロインジェクションを行った。マウスではうまくいかなかったものの、同時に行ったラットで遺伝子の導入に成功し、導入遺伝子のホモ化にも成功した。このラットが、再生医療のモデル動物として有用であると期待される。
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