青枯病はナス科植物をはじめ、200種以上の植物が罹病する深刻な農業病害である。タイプIII分泌系は植物細胞内に直接、病原性因子を注入する分泌機構で、青枯病菌(Ralstonia solanacearum)の病原性決定因子である。この機構は、植物由来の物質とクオラムセンシング(QS)シグナル物質によって制御されていることが近年分かってきた。しかし、これまでにこれらの化学因子の構造は明らかになっていない。本研究では、青枯病菌のタイプIII分泌系の制御に関わる内生因子と植物由来因子の精製をそれぞれ進めた。その結果、内生因子にはタイプIII分泌系に対し正に作用する物質と負に作用する物質の2種類が存在することが明らかとなった。また、どちらの化合物も精製を進める過程で活性を消失してしまうため、不安定な物質であることが予想された。まず、正の因子にターゲットを絞り、青枯病菌の内生因子の精製を進めた。得られた活性画分をNMRおよびMSにより構造解析したところ、活性画分は脂肪酸であることが判明した。しかしながら合成標品の脂肪酸には活性が認められず、活性本体は非常に微量な成分であることが強く示唆された。現在、より多くの菌培養物を用いて、内生因子の精製を進めている。一方、植物由来の因子として、シロイヌナズナとトマトの芽生え抽出物およびタバコの培養細胞抽出物について活性を比較したところ、タバコの培養細胞に強い活性が認められた。そこで、タバコの培養細胞から各種クロマトグラフィーを用いて精製し内生因子を単離した。機器分析の結果、本内生因子の構造を推定することができ、さらに、本物質は天然物、合成標品ともに活性を示した。現在、さらにより詳細な解析を進めている。
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