食品の味は、その嗜好性を決定する上で重要な因子である。近年同定された味覚受容体の機能解析の知見から、ヒトが感じる基本味(甘・酸・塩・苦・旨)の強度は、対応する受容体の活性化の程度として理解することができる。しかしながら食品を実際に摂取した時に感じる味は非常に複雑(すっきり・しつこい等)であり、それを正確に表示するには活性化強度以外のパラメータによる評価が必要である。 本研究は、味の指標となる他の因子を実験的に提示できないかという考えから発想に至った。味物質の呈味持続性を規定する因子を、味物質と味覚受容体との直接相互作用における速度論的パラメーターから探索するため、リコンビナント受容体タンパク質を用いた解析を行うこととした。 まず甘味・旨味受容体のサブユニット(T1Rs)について、昆虫細胞発現系を用いて発現を行った。これらの受容体は細胞外領域が500アミノ酸程度と大きく、この部分が主たるリガンド認識部位となっているので、細胞外領域のみの発現を試みた。各サブユニットの細胞外領域に精製・検出用タグ配列(His、FLAG、Myc)を付加した変異体をデザインし、Bacmidを作製後、Sf9細胞に遺伝子導入しバキュロウィルスを作製した。その後、HighFive細胞にウィルスを感染させ、リコンビナントタンパク質を培地中に分泌生産させた。ウィルス感染後の培地をウェスタン分析に供したところ、発現タンパク質が確認できた。タグ配列の種類によって非還元状態におけるバンドパターンに差が見られたことから、多量体形成に何らかの寄与をしていることが示唆された。一部のコンストラクトにおいては、タロン樹脂を用いたアフィニティ精製を行うことで、単量体に相当する発現タンパク質を濃縮することが可能であった。今後、さらに精製を進め、発現スケールを増やすことで必要量のタンパク質を確保する予定である。
|