食品を実際に摂取した時に感じる味は非常に複雑(すっきり・しつこい等)であり、それを正確に表示するには受容体の活性化強度以外のパラメータによる評価が必要である。本研究では、従来のin vitroの実験において示された味覚受容体活性化の検出に加えて、味の指標となる他の因子を実験的に提示できないかという考えから発想に至った。味物質と味覚受容体との直接相互作用における速度論的パラメーターを求めることで、味物質の呈味持続性を規定する因子を検索しようとする研究である。 前年度の研究によって確立した昆虫細胞発現系を用いて、ヒト甘味受容体の細胞外領域についてリコンビナントタンパク質を得た。受容体タンパク質を表面プラズモン共鳴法による測定に供するため、測定用チップへ固定化を行った。アミノカップリングによる共有結合を介した固定化を行った際には、充分量の受容体タンパク質の固定化は達成されたものの、甘味物質を投与した隣にチップ表面の質量増加が観察されなかった。一方、甘味物質の一つである数種類の甘味タンパク質について、アミノカップリングによるチップへの固定化を試みた。この場合においては、複数の組み合わせにおいて、受容体タンパク質を投与した際にチップ表面の質量増加が観察された。 以上の結果から、味物質と味覚受容体との直接相互作用を観察する際には、味物質側を測定用チップへ固定化する方法が優先されるとの結論を得た。今後多種類の甘味物質を検討するにあたり、各物質ごとの適切な固定化方法の検討が課題として挙げられる。
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