研究概要 |
本研究は、森林地帯において、降雨・林内雨・深さの異なる土壌水・地下水・河川水・湖水を採取し、有機体炭素濃度及び3次元蛍光スペクトルを解析する事により、森林生態系における溶存有機物の形成・変性などの循環過程を解明することを第1目標とし、さらに、植栽地と皆伐地の比較によって、土地利用形態が水質にもたらす影響を解明することを2つ目の目標として行った。林内雨は、降雨と同程度のDOC濃度であるにも関わらず蛍光スペクトルの蛍光強度とFT-ICR MSの検出ピーク数が増加し、降雨が林内雨になる際に樹冠からある種のDOMが溶出し、加わる事が判明した。DOC濃度・蛍光スペクトルの蛍光ピーク強度・FT-ICRMSの検出ピーク数は、土壌では降雨・林内雨に比較すると劇的に増加し、深部地下水になると、微生物による分解と鉱物や土壌粒子によるDOMの吸脱着作用が進んで土壌水から一気に減少した。皆伐地と植栽地の比較においては、DOC濃度は、植栽地のA・B層の方が皆伐地のA・B層よりも概して高かった。FT-ICR MSの結果からは、皆伐地に比べて植栽地ではH/C比とO/C比の小さい黒色炭素様物質(縮合率が高く不飽和結合の多い化合物:H/C=0.3~1.0,O/C=0~0.4)及びリグニン(H/C=1.0~1.6,O/C=0.1~0.5)が検出される領域により多くのピークが観測され、皆伐地と植栽地で分子組成に違いが見られた。これらの違いから、森林伐採が淡水の形成・変質過程に何らかの影響をあたえており、地下部の土壌水中のDOM組成が地上部の状態に大きく左右されていることが示唆された。
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