森林を対象にして、生物多様性が低下すると生態系機能も低下するという関係(多様性-生態系機能関係と呼ぶ)を調べた研究はほとんど行われていない。これまでに多様性-生態系機能関係が明らかにされない原因として、個体数やバイオマスが少ない低密度種の存在がある。低密度種は群集の構成種の多くを占めるが、個々の種が生態系に及ぼす影響が小さいため、その存在は多様性-生態系機能関係を明らかにするのを妨げてきた。本研究は、低密度種として虫こぶ形成昆虫を対象とすることで、その多様性-生態系機能関係を明らかにすることを目的とする。ケヤキハフクロフシが形成されたケヤキの落葉は、虫こぶが形成されていない落葉とサイズに違いはなかったが、バイオマスは15%増加していた。また、虫こぶ密度が高いほどバイオマスが大きかったことより、虫こぶの形成は物質生産を促進していると考えられた。3種の虫こぶが形成された落葉の1年間の分解速度は、カシワメニセハナフシでは虫こぶが形成されていない葉よりも速く、ナラハグキコブフシでは遅く、ケヤキハフクロフシでは違いがなかったことから、虫こぶの種類によって分解過程に及ぼす影響が異なることが分かった。エゾマツカサアブラムシの虫こぶの分解過程を明らかにするため、形成された時期の異なる虫こぶの重量とサイズを計測した結果、当年性のものと2-5年前に形成されたものの重量には違いがなかったが、10年以上前に形成されたものは明らかに軽かった。エゾマツカサアブラムシ及びヒメカサアブラムシの虫こぶが形成された落葉落枝を採集し、リターケースに入れてエゾマツ林の林床に設置した。このサンプルの分解過程については来年度調査を行う。
|