研究概要 |
最近、カルシウム大過剰の酸性条件下でシラカンバ葉肉細胞から得たプロトプラストを培養したところ、β-1,3-グルカンであるカロースからなる繊維が分泌されることが見出され^<1)>、それがナノ/マイクロ径の中空糸より構成されるユニークな階層構造をもつことが明らかにされた^<2)>。このカロース繊維合成機構は、カルシウム濃度や酸性条件といった一種のストレス環境に応答したプロセスだと考えられる。このようなストレス応答に起因したカロース繊維生産機構を明らかにすることは、植物の制御されている潜在能力を探る上で有益な情報になる。しかし、この場合のカロース繊維を産生するプロトプラストの数は、96wellプレート1枚あたり約25個と低く、この要因として、葉肉細胞が様々に分化するため、ストレスに対して同調した応答を示さない可能性が挙げられる。 そこで、本研究では、同調性の高いカルス懸濁細胞を用いることにより、ストレスに応答してカロース繊維を産生する細胞数を増加させるための検討を行った。まず、懸濁細胞の継代回数、pH、カルシウムイオン濃度を変えて繊維産生における最適な培養条件を検討した。その結果、カロース繊維を産生するプロトプラストの割合は、葉肉由来プロトプラストに比べ約8倍となり、第一の目的であったカルスを用いて同調率を上げる繊維生産誘導系条件を見出すことができた。この繊維の形態を解析するために超薄切片を作製し、透過型免疫電子顕微鏡観察を行ったところ、中空糸にはなっているものの、その直径は葉由来のプロトプラストの場合と比較して小さくなっていることが判明した。さらに、繊維合成酵素の単離を試みたが、単離精製までは至らなかった。 1) Kondo, T., Magoshi, J, Abe, H, Sasamoto, H. (2000) Japan Patent No.3936522. 2) Seyama, T., Kimura, S., Sasamoto, H, Abe, H., Kondo, T. (2008) Planta 227 : 1186-1197.
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