研究概要 |
4月から6月にかけて北海道噴火湾において生きたカイアシ類の採集を行い,体内通過音速ならびに生体密度の測定を行った。カイアシ類の中には体内にオイルを貯め込む種がおり,このオイルの有無で音響散乱特性が異なることを昨年までに明らかにした。そこでそのオイルの抽出を行い,オイル自体の音速と密度の測定を行い,オイルの音響物理特性を調べた。 また,水産工学研究所の海水水槽における生きたカイアシ類のTS測定も行った。TS測定時に厳密に測定する必要がある水槽内海水の水温と塩分について,本経費により既存のCTDの容器とケープルを新規にしたため良好なデータを取得することが出来た。測定環境を正確に把握しつつ生きたカイアシ類を水槽内に懸垂し,超音波の入射角を変えながらTSの姿勢角特性を調べた。昨年同様,オイルを体内に貯め込んだカイアシ類のTSの姿勢角特性はオイルのない個体の姿勢角特性と全く異なった特性を示し,かつ,既存の音響散乱モデルによる推定値と大きく異なっていた。これについては抽出したオイルの物理特性を用いて検討しているが結論を出すには至っていない。実測データは揃っているので,今後早急に理論的検討を行い,カイアシ類全般に適用できる音響散乱モデルの構築をおこないたい。 現場で取得した調査データを用いて,まず,カイアシ類より大型のオキアミ類について音響データと採集データを併用して生物密度を推定した。同じ手法によりカイアシ類についても生物密度の推定を試みた。用いる周波数の組み合わせによっては,カイアシ類を他のプランクトンから抽出できる可能性が示唆された。現在,採集データとの比較を行っているところである。 最後に,計画通り,カイアシ類についても広帯域音響散乱特性を調べた。今後,オイルを持つ個体の音響特性が解明され次第,広帯域の散乱特性に対する妥当性も検証する予定である。
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