農業の倫理学的分析対象としては、応用倫理学としての生命倫理、環境倫理、経営倫理のいずれとも対象を同じくする場合がある。生命倫理については、受精卵移植、遺伝子組み換え技術等、環境倫理については環境負荷、地球温暖化問題等、経営倫理としては法令遵守に関わる様々な問題、家族あるいは法人経営における組織的倫理の問題等である。このため、農業技術のあり方としての技術倫理についても、開発、使用、評価などにおいて倫理学的な接近が可能であり新たな知見を生む可能性があることが、先行研究から示唆されている。 一方で、農業そのものの存在に対する21世紀的状況を踏まえた倫理規範の構築と応用倫理学としての農業倫理は、先の諸分野とは異なる独自の対象、問題があり、特に社会的背景、状況を踏まえた、倫理学的接近による分析が有効である。このような問題については本課題で対象にするものに位置づけ、問題事象の把握と具体的な分析について、倫理学の概念、論理からの分析を試みた。 本年度は、広島県の柑橘産地農協の部会規約を対象として、部会規約とこれに対応した部会活動を分析の対象とした。ここで倫理学的分析の対象としたのは、規約の規範的内容、規範違反者の発生状況と理由、違反者および遵守者におけるディレンマ、葛藤等の存在の確認とその態様、ディレンマや葛藤がある場合のその解決の方策などである。特に、農業経営、農業組織においてはディレンマ(選択肢は二つ以上あるが、いずれを選択しても当事者に善くない状況をもたらすような状態)発生の把握と、その解消方策、それらに関係する諸活動における合意形成のあり方などの有用性の提示について試みた。
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